対話

うつ病の息子を持つ母親 -3-

生誕の祝福を思い起こすとき、息子の狂気は目を醒ます。純真な喜びは音も立てずに死に絶えた。時の暗流に息子は眠らされ、現実という名の悪夢に目は痙攣している。星々の威光は宿命を強制し、旅する息子の顔は腐れている。奴隷のように背中は曲がり、右手と左手は錠をかけられてなお疎遠であり、足音はリズムを刻めない。道の途上で倒れ、主人の目が無慈悲に血走るとき、日ごと鞭を打たれ、悲鳴がとどろき、死の憧れに嗚咽する。苦痛は時をこえて蔓延し、空間を御して伝染する。歴史や医学は脱獄を教えない。友情や親子の弁証法も結論は檻だった。あの母親がわたしの手を握り返してきたとき、氷の目つきは涙で溶けていた。

「息子は別人になってしまいました。食事の皿は投げつけられ、口から出る言葉は脅迫の響きを帯びています。度はずれた反抗に耐えかねて、温和な夫がついに拳をふるったのです。そして私は、夫の暴力を見て、それに賛同している自分に気がついたのです。愕然としました。息子を守るべき立場の母親が、むしろ、息子のすすり泣きに溜飲を下げるに留まらず、夫の非情を生ぬるいとして罵ったのです。あなたの仰る通り、私は息子ではなく、自分を第一に考え生きていたのです。息子への愛という耳障りの良い言葉に甘えて、その偽善に目をつむったまま、息子の人生に土足の介入を続けてきたのです。本当に可哀想なことをしてしまいました。医者という将来に執心するより、ただ息子を愛してやればよかった。教育が、自己中心性から行われるとき、ひずみが生じ、無数の胚珠が麻痺した精神に蓄積されて、最後にはこうも一気に瓦解してしまいます。もはや、私たち夫婦には何の修復能力もありません。夫は粗暴になるばかりです。全て私たちの責任ですが、結果に責任を負う方法すら分からないのです」

諦めないことで責任を負うことができる。息子があなた方に耐えてきたように、今度は、あなた方が忍耐強さを覚えるときなのだ。夫の暴力はあなたが解決しなさい。判断しだいでは、あなた方は仕事をやめるべきかもしれない。息子の完治にはあなた方の一生を捧げる必要があるかもしれないのだ。富や安定への渇望はとほうもない恐怖を背中合わせにし、本当に大切なものへの目隠しをしてしまう。あなた方の檻は、誤った信念により強固に築かれているが、破壊する力を知性に求めてはならない。また最も重要なのは、結果を無視して愛し続けることだ。これらのためには、忍耐の意味を確認する必要がある。正しい忍耐は、自身の葛藤や苦悩を抑圧し押し殺すことではない。この場合は遅かれ早かれ抗拒不能の爆発を招く。全てを捨て去ることで純粋になり、その純粋な器を通して流れ出るものに目をみはり、それにすべてを委ねなさい。あなたと息子を治癒する力は、あなたの純粋さにかかっている。膨れ上がったプライドに見切りをつけ、誤った態度や考えをすべて拒否する断固たる覚悟を持ちなさい。あなたが純粋であるときのみ、あなたを通して神秘の力が働くさまに医学の神髄を学びなさい。

「誤った傾向を拒絶することは当然のことです。しかし、わたしには何の力も自信もありません。今や、息子に話しかけることすら恐ろしいのです。夫は、知り合いの精神科医に相談し、精神病棟で面倒を見てもらうより他にないと考えています。それだけは絶対に避けたいのです」

檻のなかに檻をつくる前に、わたしが直接、息子さんに会いにいくことにしましょうか。




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