パワー

力のはなし – 1 –

夜明けはいつも美しい。静まり返っているが、日の光が輝いている。

しばらくすると、鳥たちの鳴き声も飲み込まれる。人間たちが亡霊じみて蠢きはじめる。彼ら、彼女たちの心は光を失っている。会社へ行きたくない。学校へ行きたくない。日の光が人間に影を落としている。早歩きだが、背は曲がり、首は落ち、伏し目がちになって、美しいものはすべて覆い隠されたまま、心配事や問題におのれを削りつつ歩いている。ある者は壊れ、ある者は勝ち抜く。比較のなか嘆き苦しむ者、勝利を矜持に加えて威勢を得る者がいる。

御しがたい力をわれわれは認めている。

彼女は親の力で学校へ、そして塾へと通わされる。飼ったばかりの子犬と遊びたい。山へ行き、川へ行き、季節の植物を愛で、とりどりの色彩や、動物たちとの邂逅を、犬と散歩のなかで楽しみたい。勉強が終わってからだと親は言う。そのうち夜になる。テストがひかえていると念をおされ、散歩の夢さえ立ち消えとなり、夜の空気と星々に身をゆだねる自由もなく、扉を閉められ、早くに寝かしつかされる。眠れない。明日もまた学校で嫌な目に遭うだろう。嫌いな子たちの顔が浮かんでくる。ブスだ、ガリ勉だと言われ、靴には画鋲を入れられ、痛がる背後に笑い声が聞こえてくる。

彼は優秀な大学で経済を学んでいたが、本当は絵描きになりたかった。暇をみつけては海と船を描いていた。小さな賞を取ったり、そこそこ権威のある人間に褒められもした。だが現実は甘くない。生きていかなくてはならなかった。障害のある妹と、老いていく親たちをゆくゆくは養わなければならない。周りも就職する。稀に息抜きもしたが、やれるだけはやり抜こうと腹をくくり、勉強に四年を費やした。そして努力は実る。だが就職したとて戦いは終わらなかった。のみならず、不正経理をやらされた。当たり前だと言われ、抗えない力があった。いつしかこんなものだという麻痺が周囲の力のなかで生まれてくる。悪いことをするほど出世した。自分という人間の影響力が増した。パワーの感覚が芽生え、口は達者になり、金と女に困らぬことが分かってきた。結婚して子供もできたが嫁が醜く見えだし不倫と離婚、やがて再婚するも離婚、慰謝料と疎遠になった田舎の家族を思い浮かべた。障害者の妹が下唇をかみしめ、あらん限りの憎しみをこめてこちらを睨んでいる顔が見えた。汚らしいベッドの上で、彼はひとり絶句した。

われわれは力を見ていない。力に動かされていることに気づいてもいない。

すべては目に見えない力、いわゆるフォースの問題だということが分かるとき、人間は視力を取り戻し、眠りから醒めはじめる。なぜなら、フォースは、力は、統御できるものだからである。人間が、より高位の純粋なエネルギーの経路ないしは媒介となるとき、意識の重点は肉体ではなくエーテル体へと移行し、たえずエネルギーとフォースの観点でものごとを扱うようになることで、結果の世界から原因の世界へと通じ撤退するようになる。言語と知性はかつての道具となり、今や彼は純粋な目である。彼女は目を通して力を制する。力に対して、力で制する。前者の力は盲目な者にのみ効力を持ち、目の見える者には姿をあばかれ通用しない。

われわれは外側しか見ていない。物事は起きるが、問題になるかは別である。

自分が純粋であるとき、光は力強くおのれを守り、闇を追い払う。錯覚の時代は過ぎ去り、静かに、静かに、幸福に包まれている。彼の悩みも、彼女の運命も、それは特別なことではなくなる。存在するのは存在そのものだけである。光であり、美であり、力である生命があるだけである。われわれは男だったかもしれないし女だったかもしれない。いい奴だったかもしれないし、悪い奴だったかもしれない。弱い人間であったかもしれず、強さをあらわす人間だったかもしれない。しかしわれわれは力であり、強さをおのれに証明して、個人の物語に幕を下ろす。目に見えるのはすべて光である。そして広がるのは、波立つことのない、力強い静寂である。

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