孤独

孤独に悩むうつ病の公務員

われわれは孤独を恐れている。孤独な自分が導き出すものを恐れている。そして反射的に、恐ろしいものから逃れようという外向きの思考がはたらきだす。けっして、孤独である自分の内にとどまろうとはしない。孤独である状態を見てみようとは思わない。逃れるため、孤独が苦痛をともなう悪しきものであるという観念に執着する。このように人間が条件付けられているのは、単に、記憶と想像の作用によるものである。

なにごとも離れて見ることのできる人間は幸いである。彼はこう言うだろう。

それとわたしは関係がない

このような人間は、心理的な恐れというものの正体を知っている。ヴェールを剥がされたものは、おのれを露わにすることになる。われわれは恐怖が何なのかに興味を持ち、見てみようとするだろう。そして、見られた瞬間に恐怖が消えるという事実を知ることになるのだ。われわれの多くが、対峙というこの勇気の神秘を探求することが、自分のみならず、世界に貢献することを広く知らねばならない。

「孤独は私にとって地獄そのものです。大学までは孤独と無縁の一般的な若者でした。やがて就職することになるのですが、『国民全体の奉仕者』であるはずの公務員にあって、私たちの組織では、皆が犯罪に手を染めていました。文字通り全員です。具体的なことは申せませんが、それは新人のときから強制されます。悪いことであると分かっていながら、それがひとつの通過儀礼のような仕組みとなっており、同意し自分を欺くその瞬間から、皮肉なことに、同じ仲間として認められ、組織で生き抜く第一歩と見なされ歓迎されるのです。世の中がこれほど腐敗していることに愕然となりました。純粋な正義感から私はこの職を目指したのです。しかし、腐敗を正す側が腐敗していたのです。告発する勇気はありませんでした。その前に殺される可能性を感じたからです。そういう組織なのです。わたしは自分の臆病と低劣さに悩み、また社会を知るにつれ人間不信となり、やがて極度のうつ病になり、辞職を余儀なくされました」

いまあなたは絶望的な感覚に浸っておられるが、それ自体が問題なのだろうか。

「いえ、私が悩み苦しみ、夢に裏切られた気持ちでうつ病となり、しかし勇気をもって辞職したことは、むしろ誇りと感じています。ただし、わたしは人間と関わりを持ちたくないため、もう十年ばかり、新聞配達で生計を立てています。親は悲しみ、兄らとわたしを比べて、おまえは最悪の出来損ないだといいます。しかしよいのです。自分の信念をまげることはできません。ただ、人間とは弱いものですね。ほとんど一日中、まともな会話というものがわたしの人生にはありません。たった一人きりなのです。嫌なことを忘れるため、このような都会の雑踏にあえて身を浸してみたものの、周囲を歩く人たちの笑顔や会話が羨ましいのです。むかし、一人だけ仲の良かった女性がいましたが、今はどうしているのでしょうね。時折り思いおこし、幸せに結婚して、立派なお子さんに恵まれていればいいなと空想を巡らせます。わたしはこういう運命だったのでしょう。孤独に慣れはしましたが、やはりもう限界のようです。なんのために生きていないといけないのでしょうか。新聞配達をし、人々の屈託ない笑い声を通りざまに聞きます。たくさんの家族が行き交うなか、少しだけの食料をカゴに入れて、愛想のないレジの店員からおつりを受け取り、壁の薄いアパートに帰ります。家でテレビを見ても笑えません。エリオット・スミスの「Miss Misery」を自分に重ね合わせて聴き、彼とともにジョニ赤をあおる最初の一瞬だけが、少しだけの喜びです。テレビにはコメディアンが出ていますが、わたしは酔いつぶれ、涙を流すのです」

安逸な生というものは、一時的であるにせよ、ひどく人間を鈍感にしてしまう。そのためより過酷な生にあえて身を投じる者も多いのだ。彼らの動機は、自己の陶冶であり、真理への渇望である。もし世界が、あなたが見ている世界だけだとするならば、あらゆる繊細な人間、あらゆる知的な人間、あらゆる感受性豊かな人間は生より死をこいねがうだろう。あなたの問題は、孤独と直面することで解決される。酒はいずれあなたを支配する側に回るから捨てなさい。そして、哀れな自己憐憫にそろそろ飽きたなら、孤独というものが何なのか見るがよい。孤独に打ちひしがれているときの、その感覚をだ。いまのあなたの苦しみは絶大なものがあるため、見る力は強く、そして孤独のヴェールを剥がしたときに直面するものは、えもいわれぬ至福だ。あなたは孤独という苦痛を扉にするがよい。平凡に暮らす人間にはけっして与えられない宝があなたのその孤独だ。あなたがいくら貧しく、不幸であろうとも、あなたの見ている世界の背後に広がる真理は、つねにあなたとともにあり、そして現にこうして天の財宝を与えているのだ。曲を切り替えなさい。「Afternoon Delight」が「Miss Misery」に続いて流れるのを聴くだろう。




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コメント

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  1. 私も元公務員で、うつ病になりました。主な原因は先輩職員によるパワハラです。もう20年以上前のことですが・・・
    以来、何度も再発を繰り返し、休職を繰り返しました。
    最終的には、退職を迫られ、依願退職をしました。今は介護士をしています。アメブロとはてなでブログを書いています。ブログ覗いて頂けると嬉しいです。

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