錯覚

家業

商家の息子は成人した。親に成長を認められ、これからは家業を継ぐことに決めた。はりきって机に座った。すると学生時代の友人が来て、近くに美味しい食べ物屋ができたと言った。商家の息子は思った。そうだな、働くためにはまず腹ごしらえだ。彼は食べに出かけた。

翌日、今日から本格的に家業を継ごうと彼は思った。すると別の友人が来て、いい女がいるんだが、と言った。商家の息子は思った。家業を継ぐには嫁さんが必要だしな。彼は女を探しにいった。数人の女と楽しみ、女遊びはやめられない、若いうちは独身にかぎると思った。すると次の日、家の外から悪友に呼びかけられた。いい儲け話があるんだが。商家の息子は思った。女の味も忘れられないし、何より、家業のためには資金が必要だからな。彼は金儲けにでかけた。

次の日は誰も来なかった。商家の息子は物足りなかったが、そろそろ家業だと言った。机に座るとやる気がでなかった。そもそも眠かった。だからその日を休みの日と決めた。明日からだと彼は思った。長い眠りを貪った翌日、大きな音で目覚めた。店の窓が割られていた。商家の息子は思った。こんなことをするのはあいつしかいない。ライバル会社の社長である。彼は怒って敵を殴りに行った。

次の日、親が死んでいた。家業で成果をあげる姿を見せられなかった。彼は泣いた。悲しみに暮れた。この世は残酷で苦痛だと嘆いた。しかし翌朝起きると、商家の息子は盛大な葬儀を決意した。せめて豪華な弔いで故人と喪主である自分の栄光を見せつけようと思った。参列者は大変満足し、生き仏のような親御さんだったと口々に褒め称え、あんたはいい息子さんだと言った。

二日酔いで目覚めた翌日、家業に関して何もしていないことに気がついたが、その間に、ライバル会社は急成長をとげていた。天敵の社長が満足気に笑っている姿が浮かんできた。しかも、いい嫁さんにいい家、いい車。絶対に許せないと商家の息子は思った。そのとき店の外から誘いの声が聞こえてきた。「今日は飯か、女か、それとも勉強でもするか」。商家の息子は考えた。家業を継ぐためにはもっと勉強しよう。そしてライバルを打ち負かそう。彼は家業のために学びにでかけた。こうして、彼は永遠に家業に取り組むことがなかったのである。

もしも

商家の息子が弟子であったならば、いくつかの誘いは断っただろう。もしも、商家の息子がイニシエートであったならば、全ての誘惑に反応することはなかっただろう。用事を聞いては断るだけなので、そのうち誰も来なくなっただろう。何の誘いもなくなっただろう。したがって、真の家業は成功したであろう。

我々の肉体、アストラル体、メンタル体はどうであろうか。識別の斧はふるわれているであろうか。めくるめく感情、欲求、想念の誘い。これらの友人に結合しているだろうか。誘いを見て拒絶できているだろうか。その必要性を感じていないだろうか。誘惑があまりにも魅力的であるため、誘惑であるとすら気づかないでいるだろうか。これらの問いに真剣に答えようとする者はいるであろうか。

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